夜、眠る前に置いていける10の問い

夜の自分は、朝の自分とは別人です。

朝の問いが「これから始まる1日に着地するため」のものだとしたら、夜の問いは「終わった1日を、責めずに置いていく」ためのものだと、わたくしは考えています。

イーサン・クロスの『Chatter』という本に、頭の中で繰り返される独り言は、夜になると音量が上がる、という話が出てきます。日中は外側の刺激が打ち消してくれていた声が、布団に入って静かになった瞬間に、ぐっと前に出てくる。あの感覚です。

ここに並べる10の問いは、わたくしがIT業界で4,000回ほど人前で話してきた中で、夜のクロージングや一日の振り返りの時間に、相手の表情がやわらいだ問いだけを残したものです。1日を採点するための問いではありません。 1日を、ただ、置いていくための問いです。


問い1

今日一日、自分のどこをいちばん使った? 頭、心、体、どれ。

疲れにも種類があります。頭が疲れた日と心が疲れた日と体が疲れた日では、夜にしてあげるべきことが違う。夕方の段階では混ざって見えていた疲労が、この問いを置いた瞬間にすっと分かれることがあります。

接客業の方々の研修で、終わりの時間に「今日はどこが一番疲れましたか?」と尋ねたことがあります。最初は皆さん「全部です」と笑われるのですが、頭・心・体と並べて見せると、急に「あ、今日は心の方ですね」と具体的な答えが返ってくる。疲労には名前があったほうが、夜に休ませやすい、という発見でした。

問い2

今日、誰の言葉がまだ残っている。

これは問いではなく、置いておく一文です。残っている言葉は、良いものとも限りません。嬉しい一言かもしれないし、刺さったままの一言かもしれない。良い悪いを判断する前に、ただ「ある」と認める。それだけで、その言葉は少しだけ手元から離れていきます。

問い3

今日のうちで、少しだけ嬉しかった瞬間があった。

「楽しかったこと」ではなく「少しだけ嬉しかった瞬間」。ハードルを意図的に下げています。改札を出たら雨が止んでいた、とか、コンビニの店員さんがちょっとだけ目を合わせてくれた、とか、そういう小ささでいい。


ここまで読まれて、もしかしたら「もっと深く振り返るような問いがほしい」と感じられるかもしれません。けれど、わたくしが長年見てきた限り、夜に深く振り返るほど、眠りは浅くなる傾向があります。

夜の問いの役目は、掘ることではなくて、置くことです。


問い4

今日の自分に、謝りたいことがあるとしたら何?

他人にではなく、自分にです。無理させたな、とか、声を聞いてあげなかったな、とか、そういう類の小さな謝罪。誰かに話す必要はありません。心の中で「ごめんね」と一言、自分に向けて言ってみる。それだけで、夜の自分の輪郭が少し戻ってきます。

問い5

今日、言えなかった「ありがとう」がある。

これも提示形で置いておきます。誰に言えなかったかを思い出せたら、明日伝えてもいいし、伝えなくてもいい。大事なのは、自分の中に「ありがとう」が一つ残っている、と気づいておくことです。残っている事実だけで、心はわずかに温度を取り戻します。

問い6

眠る前に、置いていきたい重さがある。

具体的に何かを名指す必要はありません。「ある」とだけ思ってみる。その重さが何かはわからなくても、置いていきたい、という意思だけで、体は少し緩みます。

ある研修で、夜眠れないというスタッフの方の話を聞いた時、「眠る前に何を考えていますか?」と尋ねたところ「明日のミスのこと」と答えられました。そこでわたくしが「明日のミスは、まだ起きていないので、まだあなたのものではないですよね」とお伝えしたら、しばらく黙って「あ、そうか」と笑われました。重さの持ち主を確認するだけで、置けるようになる重さは、案外多いです。

問い7

今日できなかったことを、明日の自分に預けていい。

『Chatter』の中で紹介されている技法に、自分を三人称や別の時間軸に置き直すというものがあります。「今日の自分」と「明日の自分」を別人扱いすると、引き継ぎがしやすくなる。やり残したToDoは、あなた個人の失敗ではなくて、明日のあなたへのバトンとして置き直せます。

問い8

今日、一番呼吸が浅くなった瞬間はいつだった?

体は記憶します。今日のどこかで、呼吸が止まった瞬間が必ずあるはずです。電話を取った瞬間か、メールを開いた瞬間か、誰かの足音が近づいてきた瞬間か。思い出せたら、今、布団の中で一度だけ、その時できなかった深い呼吸をやっておく。それだけで、体は今日と少しだけ距離が取れます。

問い9

今日、自分に優しくできた場面が1つだけある。

1つだけ、というところがポイントです。たくさん探すと「全然できていない」という方向に引きずられます。1つだけなら、必ずあるはずです。階段でなくエスカレーターを選んだ、とか、無理して笑わなかった、とか、それで十分。

問い10

今日のことは、今日に置いていける。置いていけるものがある。

最後の問いは、提示形で置いておきます。すべては置けないかもしれない。でも、置けるものは、ある。今日に属するものを、今日に返す。明日のあなたが受け取る荷物は、今日のあなたが思っているより、ずっと少なくていいです。


10問、並べました。すべてに反応する必要はありません。むしろ、布団に入ってから3つ目で眠ってしまうのが、いちばん健全な使い方だと思っています。

夜は、採点の時間ではなくて、置いていく時間です。


気になった問いだけ、手帳の端に書き留めてみてください。


もし今、しんどいときは

1人で抱えなくていい。専門家に話すことは弱さではなく、選択肢の1つです。


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